罪人たち (2025):映画短評
罪人たち (2025)
ライター4人の平均評価: 4.5
イマジネーションあふれる傑作
監督・ライアン・クーグラー&主演・マイケル・B・ジョーダンというとっても信頼できる組み合わせの新作。どんな映画でも楽しくなりそうですが、なんととんでもないサバイバルホラー映画になっていました。ただ、作品の前半分で1930年代のアメリカにおける黒人文化、歴史、音楽(=ブルース)と言ったエッセンスが丁寧に描かれていることもあって、映画全体に一種異様な箔を身に纏わせることに成功し、単純なホラー映画という枠組みには収まらない逸品となりました。噛めば噛むほど味がするタイプです。IMAX70㎜で撮影されているということもあるので可能な限りラージフォーマットのスクリーンでご覧いただきたいです。
音楽はこうして存在してきた
「音楽とは何か」を描く映画としても、深い感動を与えてくれる。音楽が、耳に聞こえる音としてだけでなく、目に見えるものとして画面に映し出される。それも黒人音楽だけではない。ライアン・クーグラー監督はこれまでアフリカ系アメリカ人の物語を描いてきたが、本作ではアメリカ先住民、アジア系移民、アイルランド系移民、それぞれの音楽も出現させ、ブルースだけでなく音楽というものの物語を描いて、希望の余韻を残す。
禁酒法時代のアメリカという時代設定、人間ではない伝説的な存在という要素に加え、アスペクト比2.76 : 1の横長画面、計算しつくされた色彩設計が、この物語が<寓話>であることを強調し続ける。
ジャンルを超えた野心作。クーグラーの才能を再確認
ライアン・クーグラーは独自のビジョンと声を持つ、今最も面白い監督だと再確認。ヴァンパイアものは山ほどあるが、1932年の南部を舞台に黒人のコミュニティと文化、人種差別を描き、すばらしい音楽を散りばめ、バイオレンス、セクシーさ、信仰も盛り込んだ、こんな大胆かつ野心的な映画はこれまでになかった。アクション満載のクライマックスで終わりかと思うと、予想しなかったシーンが待っている。クーグラーの最高のパートナーで、ひとり二役をこなすマイケル・B・ジョーダンはもちろん、サミー役の新人マイルズ・カントンもすばらしい。メジャースタジオからもまだこんなオリジナルな映画が生まれるのだと、希望を感じる。
新たな地平を求めて成功、この映画を観ることは今を生きること
映画の語り方、ジャンルは、もはやすべて出尽くした感のある現在において、それでも「新しい映画」を求め、その実験が鮮やかに成功する。本作はそんな一本。
冒頭からしばらく、どんな世界に放り込まれるか謎めき、やや困惑する。それでも突発的に心臓を刺激する描写が挿入され、静かな緊迫感は持続。そしてドラマがやや落ち着いた頃、異様なシチュエーションから映画的興奮へ押し流されていく…。4カ所での攻防を激しい音楽とともに盛り上げるシーンなど、監督のノリノリ演出が冴え、アクションの見せ方は安定感とチャレンジ精神の究極ブレンド。
メタファーで入れ込まれる社会性テーマは、感じる人に強靭に、無関心な人に不要なのも合理的。