かたつむりのメモワール (2024):映画短評
かたつむりのメモワール (2024)
ライター3人の平均評価: 4.7
どこか歪んで独特なまま、柔らかく暖かい
冒頭から、本や茶碗などさまざまなモノが画面を埋め尽くす情景に魅了される。それらのアイテムはどれも、どこか歪んだユニークな形だが、すべてが丸みを帯びていて、粘土アニメーションならではの温もりと手触りを感じさせる。この感触が映画全編に通じる。登場人物たちもみな、造形も行動も、どこか風変わりで独特で、とんでもない出来事も起きるが、彼ららしいやり方で進んでいく。
監督・脚本は『メアリー&マックス』のアダム・エリオット。かたつむりだけが友人のグレースが、全てが彼女と対照的な老女と出会い、お互いに強い絆で結ばれて、それまでとは別のところに足を踏み出す。そういう物語に粘土の柔らかな手触りが似合う。
人間、社会を掘り下げるすばらしい芸術作品
チャーミングでユーモラスなキャラクターデザインとは対照的に、話はダークで深い。虐待、組織的宗教の闇、また性的な要素なども恐れずに直視するこの映画は、「アニメーションは家族向け」が常識のアメリカ人にはショックだろうが、アニメが重要な文化として確立している日本ではもっとすんなり受け入れられるはず。アダム・エリオット監督の個人的体験に緩やかにもとづくパーソナルな作品で、脇のキャラクターや街のディテールにもすべて思い入れ、意味がある。主人公の気持ちを反映し、青と緑が一切使われないビジュアルはどんよりとしたムードだが、そんな中にも笑いを散りばめるところにも人生のリアルを感じた。すばらしい芸術作品。
マニアックな心を刺激しながら、愛おしさに浸るアニメの真髄
作り手(監督)が主人公に自分を投影し、愛おしむように作品を編む。そのプロセスが奇跡レベルで成功した逸品。性別は異なるも、アニメーターの夢を抱く本作のグレースは、明らかに監督の分身。過酷な現実を生きる喜びに変換させる物語が真に迫っていて共感を誘う。
監督の前作『メアリー&マックス』と同じく、今回も“遠く離れた場所でも心は繋がってる”という設定が痛いほど効果的。繋がるツールが「手紙」というアナログ感が、クレイアニメのノスタルジックな感触と重なって、切なく胸を締めつける。
アニメならではの過激&ブラックな描写はありがちな感動を遠ざけ、金継ぎ、猿の温泉という日本文化がアクセントで登場するのも楽しい。