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『ミッキー17』ポン・ジュノ監督が“何かが欠けた人々”に惹かれる理由 ミッキーと自分は「似たところがある」

『ミッキー17』ポン・ジュノ
『ミッキー17』ポン・ジュノ

 『パラサイト 半地下の家族』に続くポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』が公開中だ。人体の複製が可能になった近未来を舞台に、ブラックな組織に搾取される“使い捨てワーカー”の日々を描いたロバート・パティンソン主演のエンターテインメント大作。公開を前に来日したポン・ジュノ監督がインタビューに応じ、作品に込めた思いや隠された意味、さらに今後の構想作まで広く語った。(取材・文:神武団四郎)

【動画】ロバート・パティンソンが死にまくる!『ミッキー17』予告編

 闇金の取り立てから逃れるため、危険な任務を担当する使い捨て人間(エクスペンダブル)として宇宙船に乗り込んだミッキー(パティンソン)。任務中に死亡すると“元データ”から複製され蘇ってきたミッキーだが、ある手違いから死亡する前に次の自分が作られてしまう。

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 本作の主人公は、通算17番目の複製であるミッキー17。事故に遭った彼は死亡認定されてしまい、新たにミッキー18が作られたことで騒動が巻き起こる。ちなみにエドワード・アシュトンによる原作小説のタイトルは『ミッキー7』。小説以上にモノとして酷使されていることを表すための変更だ。原作についてポン・ジュノ監督は「もしかしたら原作のタイトルは“ラッキーセブン”を意識して付けられたんじゃないでしょうか。あくまで私の想像ですけど」と面白い推測を聞かせてくれた。

 ミッキーの複製が、少しずつ“人体プリンタ”から出力されるぎこちない動きやギギギ……という機械音は、まるで家庭用インクジェットプリンタを思わせるユニークな見せ場になっている。「プリンタといえばこれだよね、という動きであると同時に、この世界における人間性の欠如を表現したかったんです。不便だし悲しくもあり、でも少し面白おかしくもあります。ロバート・パティンソンが劇中でまとってくれた雰囲気と相まって、人体プリンティングはとても重要なシーン。ギギギ……と動くタイミングも細かく調整しました」とポン・ジュノ監督。このような突飛なシーンでは「太々しさ」が大切だという。「突飛なアイデアは実際に使うとなると気恥ずかしくなりますが、私は面白ければ堂々と使うようにしています。プリンタのすぐ横では、ラボのメンバーがコインをはじいてサッカーゲームをしています。SF映画ではなかなか観られない光景ですが、こんなシーンが出てきたら面白いだろうなと、ためらうことなく取り入れました。私は天邪鬼な性格なんですね(笑)。ちなみにこれは、私が子供の頃に好きだった遊びです」と明かしてくれた。

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 金も技能も資格もないため、命を切り売りして生きる貧しい若者ミッキー。本作でもポン・ジュノ監督は、社会の負け犬たちを温かい眼差しで見つめている。「ふり返れば、卓越したパワーの持ち主や金持ち、権力者を主人公にしたことはなかったように思います。いわゆるヒーローや成功者を受け付けない体質なのかもしれませんね」と笑うポン・ジュノ監督は、その理由を真の人間ドラマを描きたいからだという。「善良だけど何かが欠けてる人々が、自分には抗えないミッションをもがき苦しみながらクリアする。そこにこそ真の感情が込められるのではないかと思っています」

 『パラサイト』でカンヌ国際映画祭やアカデミー賞など主要映画賞に輝き、続いてメジャースタジオの超大作に着手。非力な主人公が期せずしてヒーローになってしまったミッキーとポン・ジュノ監督はどこか重なって見える。

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 「そうですね。でも『パラサイト』以降の出来事は私が意図したものではなく、目の前で次から次と起きてきただけなんですけどね」と言い、ただしミッキーとの共通点もあるという。「彼とは状況が違いますが、私も映画を撮り続けている労働者です。1本ごとに肉体と精神を全て注ぎ込み作っているので、1本撮るたびに死んでまたよみがえって次を撮るぐらいの感覚で映画作りをしてます。映画を撮るたびに自分の人格や性格が少しずつ作品によって変化していく感覚を含め、ミッキーに似ているところがありますね。『パラサイト』は私にとって7本目(の長編映画)ですから、今回は『ポン8』となるわけです(笑)」

 多くのシチュエーションが宇宙船内を舞台にした本作。効率重視のクルーの生活空間から作業所、そしてミッキーが複製されるラボなど、広大な船内がポン・ジュノ監督らしい生活感あふれる描写で切り取られている。「宇宙船は全体的に汚い空間として描かれています。古びた工場とか貨物船を意識したのは、ミッキーが労働者階級であること、そしてこの映画が人間の愚かさに焦点を当てているためです。ただし2つ例外があり、ひとつは科学者チームのラボ。ミッキーが出力される場所なので、SF的なルックや雰囲気にしています。もうひとつがマーク・ラファロとトニ・コレットが演じる指導者、マーシャル夫婦の部屋で、色彩を含め派手で豪華な、ある意味グロテスクな部屋にしました。彼らの共栄心や他者、とくに女性への敬意に欠けた彼らの浅はかな精神世界を表現したかったんです」と美術へのこだわりを聞かせてくれた。

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どこか愛しいクリーパーとポン・ジュノ監督

 宇宙船の目的地は、植民惑星ニフルヘイム。マーシャルはじめクルーは、この地に新たな国家を作るため地球を後にした。この惑星にはクリーパーなる先住生物が暮らしている。「本作のテーマにつながるキャラクターで、私たち人間がいかに愚かな生きものか写し出す鏡のような存在です」とポン・ジュノ監督。『グエムル -漢江の怪物-』や『オクジャ/okja』で個性的なクリーチャーを生み出してきたが、彼らへのこだわりはあるのだろうか。「私は犬が大好きで、魂のパートナーでもあると言えます。私が10歳くらいの時、引っ越しを機に当時飼っていた犬と別れることになったんです。その時にすごく寂しい思いをして、その頃に培われた動物への感情がずっと残っているのでしょう」

 シニカルな作風でも知られるポン・ジュノ監督だが、今作はミッキーとナーシャのラブストーリーを描くなど、これまでにない一面も覗かせている。「不憫で哀れなミッキーが破壊されてほしくない、そんな思いから今回はロマンスの要素も盛り込みました。周りから丸くなったと言われますが、年齢のせいか体重のせいなのかよくわかりませんが(笑)。これから先も題材によっては丸い映画を撮るかもしれませんが、私としては丸いのは今回限定だと考えています」と、辛口復帰を宣言したポン・ジュノ監督。次回作としてアニメーションがアナウンスされているが、その後にも構想中の作品が控えていると教えてくれた。「実写作品としていくつか構想している映画があります。そのうちの1本はホラー映画で、血の海といいますか、血の雨が降るような映画にする予定です。アニメーションが『ポン9』なので、『ポン10』か『ポン11』になるでしょう」と笑うポン・ジュノ監督。私は死ぬまでいくつ数字を重ねればよいのでしょうか? とほほ笑むが、その創作への意欲は衰え知らずのようだ。

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